研究概要 |
成層圏オゾン層破壊の問題から,塩素を含まない冷凍機用冷媒HFC-134aが使われるようになってきた.この代替冷媒への置き換えでは,圧縮機の摺動面で焼付などのトラブルが多発し,潤滑油,添加剤,表面処理などの対策が施されてきたが,多くの課題が残されている.カ-エアコンのコンプレッサーを製作している企業と繰り返した討議から,将来の規制に対応するためにもこれらの課題は解決する必要が明らかである. 本研究の平成8年度では,実用のコンプレッサー摺動部が置かれる環境や作動条件を再現できるピンオンディスク摩擦装置を製作した.予備実験の結果からは,従来の塩素を含む冷媒CFC-12と比べ,HFC-134aは明らかにトライボロジー特性が悪く,特に油剤が枯渇したときのディスク摩耗量が多かった.表面分析の結果,CFC-12では摩擦面に塩素が多量に検出され,旧冷媒ではオゾン層を破壊する塩素が,厳しい摩擦条件となったときに極圧剤の働きをしていることが明らかとなった. 平成9年度の研究では,油剤が枯渇した状況下での油剤の種類,添加剤,表面処理の影響を総合的に調べた.油剤は鉱油と合成潤滑剤PAGで比較を行い,新冷媒HFC-134aと相溶性のあるPAGは金属表面との親和性が低く,鉱油と比べ油剤枯渇状態となりやすい事が分かった.添加剤として加えたTCPは塩素に代わり極圧剤の働きをして,表面分析では摩擦表面にリンが多量に検出された.表面処理では錫コーティングが極めて効果的であり,油剤が枯渇した状況でも長時間に亘り焼付を防いだ.ただしその効果は雰囲気中に酸素が存在するときには急減した. これらの成果は平成9年5月の学会で発表し,その時の討論をふまえて論文とする.
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