本研究ではトラクション解析の基礎研究として、潤滑油の断熱圧縮率あるいは音速、密度をMHz〜GHz領域で求め、粘性、粘弾性、弾塑性などの力学的相転移の遷移域を明らかにすることを目的とし、本年度得られた知見など、研究実績を研究実施計画に従って以下に略記する。(1)ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用い150℃、数GPaまでのブリルアン散乱光測定方法を確立した。トラクション油の高圧密度の周波数分散を見いだし、GHz領域では室温で弾塑性挙動で、高温になると粘弾性、粘性へ遷移していくと推察できた。(2)ブリルアン散乱によりGHz領域の音速の分散評価し、低粘度液体で音速は約2倍の周波数増加で約3.2%大きく、10mPa・s前後の油で10%程度、1Pa・sを越える油は数%と小さいことがわかった。同様にDAC装置を用いて高圧にて分散実験を行い、合成油について5GPaまでデータを得、ほとんど分散はないことがわかった。また、加圧と減圧間で物性にヒシテリシスがある可能性を示した。(3)超音波測定装置によるMHz領域の実験を行い、油の種類、周波数による相違は少なく1500m/s前後の音速となり、また、高温では150℃まで測定する装置を製作し、実験手法の確立を行った。高圧超音波装置については予備実験にとどまった。(4)超音波実験結果(MHz)とブリルアン散乱実験結果(GHz)を比べ、断熱圧縮率は最大40%程度の相違となることがわかった。高圧については大野らの力学的相転移相図を2GPaまで外挿、検討し、それにより高面圧のトラクション実験結果では弾塑性域であり速度増加は粘度増加と同じ効果がある可能性を見いだした。(5)当初の計画にはないが気孔を有する軟質圧縮性粉体が、自由体積を有する潤滑油と類似であることに着目し、DACによる超高圧下の摩擦力解析を試みた。
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