研究概要 |
近年,熱源の高エネルギー化や溶射環境における制御といった加工プロセスの改良・技術開発により皮膜の品質や信頼性の著しい向上が見られる溶射法は,表面改質技術の一環として工業分野各方面への応用が積極的に試みられている.現在実用化されている溶射皮膜のうち,WCなどの金属サ-メット硬質皮膜は,一般的に耐摩耗性やしゅう動特性などトライボロジー特性に優れており,各種機械要素接触面への応用が期待されている.昨年度著者らは,高速フレーム溶射法により厚さ40μmおよび90μmのWC-Cr-Niサ-メット皮膜をコーティングしたSCM415浸炭焼入れ材のローラ試験片を浸炭焼入れ鋼ローラを相手に市販のギヤ-油による潤滑条件下で純転がりまたは転がり-滑り接触させ,下地粗さや皮膜厚さ,接線力が溶射皮膜の耐久性に与える影響について報告した.本年度は,皮膜の強度に及ぼす母材硬度の影響について検討するために,S45C焼準材および調質材の溶射ローラを用いて2円筒負荷試験を行い,はく離の発生状況を調べるとともに皮膜を含む接触面下での応力・変形状態の理論解析を行った. その結果,次のような知見を得た. (1)純転がりおよび転がり-滑り条件下でのWCサ-メット溶射皮膜の耐久性は,母材硬度により顕著な差異が認められ,母材硬度が低い焼準材や調質材の場合,浸炭焼入れ材に比べ,はく離が発生しやすい. (2)母材硬度が高い浸炭焼入れ材の場合,発生したはく離は皮膜内でとどまっていたが,母材硬度が低い焼準材や調質材では,皮膜と母材の境界面に沿って発生した. (3)接触面下の弾塑性解析の結果,母材硬度によるはく離の発生状況の差異に関して母材バルクの塑性変形の影響が示唆された.
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