今年度は、超精密切削加工面の性状評価に必要な断面曲線のモデル同定にフラクタル・カオス理論の採用の有用性について検討を試みた。得られた主な成果は下記の通りである。 1.フラクタル理論による性状評価 フラクタル次元の計算法は、カバー法、スペクトル法、メツシュ法および変分法があるが、これらを比較検討した結果、断面曲線の解析には変分法の精度が最も高く、これで解析した。 その結果は、一般的に、旋削加工面はフラクタル性を有し、そのフラクタル次元は1.1〜1.5の範囲に分布する。 フラクタル次元と加工条件との関係について実験的考察を試みると、工具ノ-ズ半径と切削速度をある値に押さえ、送り量を大きくすると次元の値は小さくなる。また、ノ-ズ半径が増加すると工具振動やひびり振動が生じ易く、その結果、次元は大きくなる。一方、送り量が増加すると、断面曲線は規則的で単調なプロフィールを示すが次元は減少する。切削速度が次元に及ぼす影響は被削材の切り屑の形態に依存し、次元の値は不連続型切り屑(鋳鉄)、せん断型(黄銅)そして流れ型(炭素鋼)の順に値が低くなる。 2.カオス理論による性状評価 断面曲線のカオス特徴抽出はリアプノフ指数の値が一つでも正の値になればよい。 計算した結果、最大リアプノフ指数が正になることがわかった。また、アトラクタの3次元相空間について相関積分と距離との関係を調べた結果、べき乗関係が存在し、一方、相関積分が相空間の次元の値の増加と共に収束し、また、相関次元も一定値に収束する事が認められた。 ところで、リアプノフ指数と加工条件との関係は、工具ノ-ズ半径や送り量が増大するほど、また、切削速度が小さいほど指数は大きくなる。この事から旋削加工面の断面曲線のような慨周期関数はカオス特徴を有し、カオスで同定できることが明らかである。 本研究を通して、旋削加工面断面曲線にはフラクタルとカオス性が認められ両者が双方的関係にある事が解った。
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