生体内の微小血管の血流抵抗を血球の存在まで考慮して正確に評価するために、本年度は、1.微小血管の内腔形状に関するデータ整理と血流の観察、および2.それに基づく数値シミュレーションによる血流抵抗の流体力学的評価を行った。 1.微小血管の幾何形状データの整理と血流観察:血管断面形状に関する実験データを用いて、微小血管内腔の形状の特徴を整理した。その結果、微小血管の断面形状は円形からずれていること、特に内皮細胞の核近傍でそれが著しいことが分かった。また、微小血管内血流を顕微鏡で観察した結果、微小血管内に白血球があるとその後方に赤血球が沢山連なった状態で流れるようになり、しかも赤血球速度は白血球がない場合より遅くなることが分かった。これは、白血球の変形性が赤血球より劣るために起こるもので、血液中における白血球の数の少なさのためにこれまでその影響は見過ごされてきたが、少数であっても白血球の存在が生体内微小血管の血流抵抗を増加させる可能性があることを示唆する観察結果と考えられる。 2.血流抵抗の流体力学的評価:内皮細胞の核近傍の血管内腔への突出の影響を明らかにするため、突出をもつ管内をモデル血流が流れる場合の運動を数値シミュレーションにより解析した。モデル血球が管壁突出部近傍を通過する際には、両者の相互作用の結果、それぞれが個々にあるよりも血流抵抗が著しく増加することが示された。また、観察で得られた白血球の影響を検討するために、赤血球が白血球後方で連なって流れるときの血流抵抗について数値的に調べた。その結果、赤血球が連なって流れる場合には、赤血球がばらばらの状態で血管中央部を流れる場合より、速度は減少し、血流抵抗ははるかに増大することが分かった。これにより、生体内微小血管の血流抵抗を考えるとき、白血球の果たす役割の重要性が示唆された。
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