本研究は超高速電子写真技術におけるトナーの溶融定着や各種高分子の表面加工・処理に欠かせないピコ秒オーダーのレーザー加熱過程について、高分子内における分子レベルのレーザー光吸収過程および引き続き生ずるエネルギー状態の遷移過程、さらに熱への緩和過程を光学的な反射率測定に基づいて追跡すると同時に量子論的な理論解析モデルを構築し、そのモデルから予想される結果と光学的に測定される反射率の比較から、一連の過程におけるどの状態を反映した物理量であるかを探ることを目的としている。これは2つの異なる波長のレーザーを用いて、一方で加熱し、他方で反射率をわずかに時間を遅らせて測定することによって達成される。ここではトナー高分子に対して吸収係数の高い赤外線レーザー(加熱用:HeNeレーザー3.39μm、計測用:炭酸ガスレーザー10.6μm)を用いることとした。また、パルス状にするには電気効果素子(光シャッター)を用いることとした。なお、単発パルスでは反射率を検出できないので連続パルス光とし、加熱用のレーザーパルスと測定用のレーザーパルスの位相を光遅延回路を用いてずらすことにより加熱後の高分子の振動回転状態の遷移または熱への緩和過程を追跡することを試みた。本年度はこの光遅延回路の設計を主に行い、2枚の反射鏡面を対向させ、その間で光を往復させ、入射角を変えて光路長を変化させることによって数十から数百ナノオーダーの遅延時間が達成されることを明らかにした。また、赤外レーザーのパルス制御は数十から数百ナノオーダーが現状では限界であり、この範囲内でのシステムの構成、および測定を行うことができることが明らかになった。
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