研究概要 |
低温の凝縮面に近づくにつれて蒸気温度が高くなり,気液界面で大きな温度ジャンプを伴って液面温度に至るという"逆温度こう配現象"を,気液界面における分子境界条件の妥当性を調べることにより,実際の物理現象として正しいものであるかどうかの検証を行った。 まず,分子動力学法を用いてアルゴン分子からなる気液界面を形成し,界面方向に入射する分子の凝縮確率と界面を離れる蒸発分子と反射分子の速度分布を計測した。これにより,凝縮確率は入射分子の界面鉛直方向の運動エネルギーの関数であり,平衡系の蒸発係数も分子の界面鉛直方向の運動エネルギーの関数となり,蒸発分子と反射分子の速度分布が,蒸発係数を重み関数としてMaxwell分布を修正することによって表現できることが示された。 次に,得られた情報を気液界面における凝縮と反射,ならびに蒸発分子に関する分子境界条件として利用し,直接シミュレーションモンテカルロ法を用いた凝縮流れの解析を行った。逆温度こう配に関する従来の研究では,凝縮係数を全ての速度領域に対して1とした研究が中心であり,この場合に顕著な逆温度こう配となることが本研究でも観察されている。しかし,新しい境界条件を適用すると逆温度こう配とはならず,凝縮面に向かって緩やかに温度が低下することが確認された。また,この理由として,凝縮係数の速度依存性を考慮すると反射分子が界面近傍での速度分布の定速側に寄与するが,凝縮係数を1とした完全凝縮の場合には反射分子がないため定速の分子が減り,逆にエネルギーの高い高速の分子が多くなって逆温度こう配となることがわかった。実際の物質の凝縮係数は全ての速度領域において1であるとは考えにくいため,逆温度こう配現象は仮説に基づいた現象であるものと判定される。
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