鉛直面を流下する液膜のガス吸収の表面波による促進の機構を明らかにし、そのモデルを構築するため、任意の周波数の二次元および三次元の表面波を形成させ得る手法を開発し、実験的研究を行った。著者らのものを含めた最近の研究によれば、液膜表面波内には渦が生じ、その渦度は波の速度と単調増加の関係にあること、およびこの渦がガス吸収促進に重要な役割を演じていることが知られている。そのため、本研究では主として、二次元および三次元表面波の運動特性を詳細に調べ、以下の知見を得た。 二次元波においては、波数の増加に伴い、波の速度は初め減少し、最小値を取った後、単調に増加する。波の速度が減少する領域では、重力により駆動される液膜流れの慣性力が波の運動において支配的となり、波の内部に大きな渦を生じさせる。波数の大きな領域では、表面張力の作用が支配的となり、それが波の振幅を小さくし、内部の渦運動を減少・消滅させる。 三次元波は、流れの慣性力が支配的な波数の小さな領域でのみ生成し、その内部に渦運動を保持する。速度すなわち渦度の小さい波は、ゆるやかな曲率の正弦波の形状を取り、一方、速度すなわち渦度の大きな波は、馬蹄の形状を取り、流下と共に馬蹄の形状が伸長する。また、この伸長の過程で、波全体としては減速する。 この様な馬蹄形表面波は、一様流中の固体壁の速度境界層において、層流から乱流への遷移の初期に観察されるΛ渦、あるいは発達した乱流境界層中の粘性層流底層から生じる馬蹄形渦とほぼ同様な形状をしており、それらの運動に関する相似性についても議論した。 本研究で得られた、流下液膜の二次元および三次元の表面波(すなわち渦)の運動に関する知見は、ガス吸収促進の機構解明およびモデル化に不可欠な基礎資料となるものである。
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