スパッタリングにより片面に酸化マンガン薄膜(厚さ40nm)をもつ重水素吸蔵パラジウム板(1×25×50mm)を真空チャンバー内に配置して、約0.5Aの直流電流を流した。約30%の確立で電流が異常変化と温度の急激な上昇が起こる。この場合、まず電流が減少したのち温度の上昇がおきることが多い。一定電圧を印加していることを考えると、電流の減少は抵抗の増加を示し、入力した電力はむしろ少なくなったことを意味する。上昇した温度は室温よりもかなり高い場合があり、この温度上昇も化学変化により説明することは困難である。実験後にチャンバーから取り出されたパラジウム板は高温度によると考えられる変形が起こる。同様の実験はパラジウム板をチタン板およびチタン線に変えて行われた。チタンは表面に強固な酸化膜をもつので重水素吸蔵は一般には困難である。表面を王水などで処理することにより吸蔵効率が上がることが分かった。直流電流を流しながら質量分析を行うと、質量数6の粒子が検出される。これはトリチウム分子を表わすと思われるが、新たにチタン中で生成されたものか、元から重水素ガス中に不純物として混入してしたものかの判断はできていない。3番めの同様の実験として、ペロブスカイト型の化合物2種類について低周波交流電圧を印加して調べられた。化合物はイットリウム系およびビスマス系の酸化物高温超伝導体である。イットリウム系試料では電流と温度の異常変動は起こらなかったが、ビスマス系試料ではパラジウム試料の場合と同様に、試料温度の急激な上昇とほぼ同時の電流変化が見られた。ただし、電流は減少する場合と増加する場合がある。これは、電流に寄与する電荷担体が重水素原子核であり、交流電流の流れの影響を受けずに、この重水素原子核が正イオンとして吸蔵位置から拡散的に移動するためと考えられる。実験後の試料表面をX線光電子分光法により調べると、多量のモリブデンが観測される場合がある。以上の結果は、いわゆる常温核融合が内部で電子移動を伴う固体なら固体の種類を問わずに普遍的に起こる現象であることを強く示唆している。
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