直径0.5mm、長さ30mmのパラジウム線を研磨して針状にし、焼きなまし後に、2気圧の重水素に24時間放置して重水素を吸蔵させる。パラジウム針を陽極、テストセルの内壁および底部を陰極、ギャップ長を10mmとして、針対平板電極を構成し4‐8kVの直流電圧を印加して、グロー放電を形成する。電圧印加と同時にへリウム3比例計数管により過剰中性子を、NaIシンチレーションカウンターによりガンマ線(高エネルギー電磁波光子)の計測を行った。1試行の電圧印加時間(中性子とガンマ線の計測時間)は24-100時間である。全試行回数は59である。中性子、ガンマ線ともバックグランドを越える値はどの試行でも得られなかった。試行終了後にX線光電子分光法(XPS)およびエネルギー分散型X線分光法(EDX)により、針電極先端表面近傍の元素分析を行った。11試料中4試料において鉄、マンガン、銅、銀がXPSにより検出された。マンガンが検出されたパラジウム電極についてはEDXでもマンガンが観られる。バックグランド中性子が豊富な野外においても同様のテストセルで電圧印加の試行を行い、XPSによる元素分析を試みた。ただし、この場合は中性子とガンマ線の計測は省いている。13試料中3パラジウム電極において鉄、スカンジウムが検出された。続いて、低気圧グロー放電用の内部可視のテストセルを製作し、重水素ガス圧を3Torrとして1時間の低気圧グロー放電状態でガンマ線と中性子の計測を行った。電極構成は棒(正)対平板(負)であり、平板電極上に重水素を吸蔵させた厚さ0.3mm、直径10mmのパラジウム円板を配置した。バックグランドを越える中性子の検出は観られなかったが、28試行中10試行においてガンマ線スペクトル上に明らかにバックグランドとは異なるピークが認められた。このピークは106KeVのエネルギーの電磁波(ガンマ線)に対応しており、再現性が高いことから、放電に伴うパラジウム中の重水素原子の移動がパラジウム中または表面近傍において核反応を誘起したことが推測される。また、ガンマ線が観測された1つのパラジウム電極でXPSにより鉄が検出された。
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