太陽熱、地熱、産業廃熱を民生、産業に有効利用する地域熱輸送システムの構築のために、コスト高で熱輸送効率の低い電磁型ポンプによる熱水輸送に替えて、大容量で高速熱輸送の可能な熱の超伝導電気流体力学(略してEHD)ヒートパイプを開発することが、本研究の目的である。EHDヒートパイプは、凝縮液と蒸気の二つの流路を有し、凝縮液を、EHDポンプによって凝縮器から蒸発器に還流させる。すなわち、従来のヒートパイプのウイックを、凝縮液通路と、リングと円筒電極から成るEHDポンプで置き換えたものである。 平成9年度では、研究実施計画にすでに述べたように、垂直方向に熱を輸送する熱サイフォン式EHDヒートパイプの熱輸送性能を従来の熱サイフォンと比較した。垂直方向熱輸送のEHD熱サイフォンを採用したのは、水平型EHDヒートパイプよりも、このタイプは装置の試作と熱輸送へのEHD効果の検証が容易であったからである。EHD熱サイフォンに直流9.0kVを印加し、凝縮器の冷却水流量を11.5l/minとしたところ、熱輸送量は0.945kcal/secとなり、従来の熱サイフォンは0.905kcal/secであった。また、印加電圧の上昇につれて、EHD熱サイフォンの熱輸送量は増加し、以上の結果から、熱輸送へのEHD効果を確認できた。 また、本年度は、EHDヒートパイプによる熱輸送量を増加させるために、EHDポンプの凝縮液駆動力の増加を図って、この力の発生条件を検討した。その結果、以下の点も明らかにできた。(1)凝縮液の駆動力の一つは、電界強度の2乗の空間的変化によって発生する力で、もう一つは、液体の誘電率の空間的変化によって発生する力である。これらの二つの力の方向は逆である。(2)分極効果を利用するEHDポンプで、凝縮液の駆動力は分極と電界の関係が非線形になって初めて発生する。
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