太陽熱、地熱、産業廃熱を民生、産業に有効利用する地域熱供給システムの構築のために、コスト高で熱輸送効率の低い電磁型ポンプのによる熱水輸送に変えて、大容量で高速熱輸送の可能な熱の超伝導電気流体力学(略してEHD)ヒートパイプを開発することが本研究の目的である。ここで、筆者が提案するEHDヒートパイプとは、凝縮液と蒸気の二つの流路を有し、EHDポンプよって凝縮液を凝縮器から蒸発器に還流させる新型のヒートパイプである。研究成果の概要を各年度ごとに以下に述べる。 平成8年度の研究成果 (1)垂直方向に熱を輸送する熱サイフォン式EHDヒートパイプと従来の熱サイフォンの熱輸送性能を実験的に比較検討した。低沸点熱媒体を凝縮器から蒸発器に戻す分極型EHDポンプに、直流9.0(KV)を印加し、凝縮器の冷却水流量を11.5(1/min)としたところ、EHDヒートパイプの熱輸送量は従来の熱サイフォンの0.905(kcal/sec)を凌いで、0.945(kcal/sec)となった。即ち、熱輸送へのEHD効果を確認できた。(2)円筒とリング電極で構成されるEHDポンプにおいて、印加電圧28(KV)で290(Pa)程度の電気圧が発生した。(3)EHDポンプ1台では電気圧が低いので台数を1台から3台に増やすと、印加電圧28(KV)で電気圧は1台時の63.2(%)増加した。 平成9年度の研究成果 (1)EHDヒートパイプの作動流体駆動力は二通り考えられ、一つは分極型EHDポンプの電極間に形成される電界の2乗の空間微分で得られ、もう一つは流体の誘電率の空間微分から得られる力である。これらの合成が流体駆動力と思われる。(2)分極型EHDポンプで、作動流体駆動力は、分極と電界の関係が非線形になって始めて発生すると思われる。 平成10年の研究成果 EHDヒートパイプの性能を大きく左右する分極型EHDポンプに不安定現象が発生した。そこで、分極型EHDポンプの基礎特性を更に明らかにする必要があると判断し、当初の研究実施計画を変更して、電気圧を作動流体温度の関系、電気圧と作動流体温度の関系、電気圧の時間変化を明らかにした。主な結果を次に要約する。(1)作動流体として絶縁油(G)を用いる場合、印加電圧32(KV)で電圧は、油温10(℃)で106.8(Pa)であったが、油温18(℃)で33.7(Pa)まで減少した。これは油温の上昇と共に絶縁油分子の熱運動が激しくなり、分子配向分極が妨げられた結果と思われる。(2)30(KV)の直流電圧を印加後、電気圧が定常値56.2(Pa)に到るまで約3分の時間を要した。これは、分子配向分極が熱運動と双極子間の相互作用によって妨げられた結果と思われる。
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