研究概要 |
本研究は最近,従来の磁器系絶縁体材料にとって替わりつつある有機絶縁材料が積雪地域の自然環境からうける侵害の中で,特に日本海沿岸で顕著な降雪に含まれる海塩成分と酸性成分が耐トラッキング性に及ぼす影響を明らかにする目的で行った。 始めに,昨年度は降水の成分を模擬した人工酸性雨溶液に各種試料を浸漬して接触角測定から撥水性の変化を検討した。今年度は浸漬試料の吸水率と損失係数を測定して酸性雨の化学的侵害によって有機絶縁材料がどのような影響を受けるか検討した。その結果吸水率は試料によって大きく異なりABS樹脂は1%に達するがポリエチレンやポリプロピレン,ポリ塩化ビニールは0.1%以下と究めて少ない。またこれらの吸水率の少ない試料は人工酸性雨溶液の強酸性に対しても耐性が強い。吸水した試料の損失係数を測定したところ吸水前より増加する傾向が見られた。 次に、浸漬試料を-20℃以下のフリーザ-で凍結しこの試料にIEC587耐トラッキング性試験を行った。その結果,ABS樹脂やポリカーボネートなどの吸水率の高い試料及び浸漬後損失係数の増した試料のトラッキング破壊時間は未浸漬試料より短くなった。またポリエチレンやポリプロピレンなどの未浸漬の耐トラッキング性試験において規定の6時間以上試験しても破壊しなかった試料でも規定時間内に破壊することが確認された。このように有機絶縁材料は酸性成分の強い降水を受けこれが凍結するような条件下では耐トラッキング性が低下することが明らかになった。
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