純粋な状態では絶縁物であるCdF_2は、希土類元素のド-ピングによりn型伝導状態が得られることがバルク結晶で知られている。また、この材料は、CaF_2をバッファ層として用いればSi(111)基板上にエピタキシャル成長可能であることも示されている。本研究は、エピタキシャルCdF_2層にCd^<3+>をド-ピングし、これを活性化してn型のCdF_2エピタキシャル層を実現することを目的として行った。ドーパントの活性化には金属Cdの蒸気圧下でのアニールが有効であることが報告されている。本研究では、分子線エピタキシ-の成長プロセスでこれを行う目的で、Cd分子線を発生できるエピタキシ-装置を製作した。 この装置内で、Si(111)基板上にCaF_2バッファ層を成長したのち、CdF_2を主に次の3種類のプロセスで成長した。すなわち、ノンドープのCdF_2層、成長中にドーパントとしてGdF_3分子線を同時照射してGd^<3+>のド-ピングをを行ったCdF_2層、およびド-ピングと同時にCd分子線も同時照射したCdF_2層の三種類を成長し比較した。成長層の横方向の電流電圧特性を測定し、ノンドープおよびド-ピングのみのCdF_2層が10^6Ωcm以上の高抵抗であったものが、Cd同時照射の活性化プロセスを併用したCdF_2層では10^3Ωcm程度まで低抵抗化するのが観測された。現段階で活性化率はまだ低いと推測されるが、条件の最適化を進めることで、活性化率の向上は見込める。本方法により、エピタキシャルCdF_2の導電化の可能性が示され、これをヘテロ構造形成と組み合わせて、弗化物系ヘテロ構造の共鳴トンネルデバイスなどの機能性デバイスへ発展可能であると結論した。
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