研究概要 |
二酸化チタンやプロブスカイト型チタン酸塩などの酸化物には電圧を印加すると次第に抵抗の減少がありこれまで一種の劣化現象と考えられていた。一方、生体の脳神経細胞におけるシナプスはインパルスが通過するたびに,一層容易に通過できるように変化し,これが脳の学習機能と直結しているものと信じられる。近年,学習機能を有するコンピュータとして,信号の並列処理を特徴とする非ノイマン型のニューロ・コンピュータが提唱されている。ここでは多数のシナプスを集積するため,出来得るかぎり構造の単純なアナログメモリ素子が要求される。 この需要に答えるべく,本研究では上記物質の抵抗変化を応用できないかを検討するものである。本年度においては,抵抗変化の原因と推測される酸素空位の挙動について考察した。まず,アクセプタをドープして酸素空位を作ったペロブスカイト型酸化物を焼成し,赤外分光,EPR,誘電特性を調べ,その結果,B-siteに置換されたII価のアクセプタは有効電荷-2価のイオンとして振る舞い,+2価の酸素空位を伴うこと,超低周波誘電緩和をもたらすこと,などを見いだした。また,高温で低酸素分圧の雰囲気において酸素空位を持つ二酸化チタン(ルチル)の抵抗変化を調べ,これを酸素センサへ利用する試みなども行った。 さらに,研究時期の関係で未発表であるが,アクセプタドープのチタン酸塩に方形波パルスを印加し,伝導度変調される様子を観察した。その結果,この伝導度変調が酸素空位の移動によりセラミックス内部の電界およびキャリア濃度を変えていることによると推定した。シナプス素子としては充電電流を小さくするために,より誘電率を小さくすること,低温でより大きな変調特性を得るために,より酸素空位移動度の大きな酸化物を見つけること,などが重要と考えられる。
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