ニッケルをドープしたチタン酸バリウム・ストロンチウムセラミックではイオン価数を補償するために酸素空位の形成されることが知られている。まず、このようなセラミックで電界を印加したときの酸素空位の挙動について解明した。熱刺激電流の測定から、約0.9eVの活性化エネルギーをもって結晶をホッピング伝導することを明らかとし、その結果、120℃以上でかつ0.6kV/mm以上の電界の印加によって伝導電流が印加時間とともに増加する現象のあることを示した。 伝導度が増加する現象は、連続的であり、また、印加電圧を取り去った後でも残留しているため、アナログメモリーとしても特性を有する。このような現象の存在する理由は、初期状態においてアクセプタとしてのニッケルイオンとドナーとしての酸素空位が平衡していたものが、酸素空位が陰極側へ移動した結果、陰極前面に酸素空位が高密度に蓄積しn型伝導体となり、一方では酸素空位が移動した後はニッケル過剰となってp型伝導体となる。しかも、n側が陰極となる極性はpn接合を順方向バイアスした状態であり、伝導電流を流れやすくしている。このようなpn接合の存在は微小信号を印加したときの電流・電圧特性の非線形性から裏付けられた。 最後に、このような記憶特性がアナログニューロコンピュータのシナプス素子として動作するという原理的な確認を行った。コンパレータとして動作する演算増幅器を細胞体と見立て、鉄をドープしたルチルセラミックをシナプス素子とし、一定のインパルス印加後に学習効果によって出力が現れることを確認した。しかしながら、現段階では原理的な確認の域に止まり、今後さらに実用的なものを目指すには薄膜化が必要なこと、また、書き込み時に室温より高い温度が必要で、そのために赤外線の同時照射などの技術の開発も要請されることがわかった。
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