研究概要 |
電子間の相互作用が波動関数測定に与える影響を調べるため,半導体ヘテロ構造中に作製された量子ドットにおける電子状態を厳密対角化の方法を用いて求めるプログラムを作成した.量子ドットのモデルは,界面に沿った方向には,円形ポテンシャル,楕円形ポテンシャル,または,三角形ポテンシャルで閉じ込められ,界面に垂直な方向には井戸型ポテンシャルで閉じ込められたモデルを採用した.作成したプログラムでは,電子数Nが15個までの電子状態が計算できる.さらに,量子ドットを介したトンネルにおいて,量子ドットに注入された電子がエネルギー緩和する過程を調べるため,計算により求めた電子状態を用いて,電子が音響フォノンと相互作用を行い緩和する時間の計算を行った.その結果,以下のようなことがわかった. 量子ドットにトンネル障壁を隔てて金属電極を設けた場合に流れるトンネル電流を,電極層と量子ドットにおける波動関数の重なり積分に注目して解析した.簡単のため電極層の電子間の相互作用は考慮に入れていない.円対称の量子細線電極と,円対称量子ドットとを接合すると(細線とドットの閉じ込めポテンシャルは,一般に,異なるとした),電極間に印加する電圧(をエネルギーに換算したもの)より,電極のフェルミエネルギー付近における準位間隔が広い場合は,波動関数の対称性により,N電子系のすべての基底状態が電流に寄与するとは限らないことがわかった.また,フェルミエネルギー付近における準位間隔が十分小さい場合,N電子系のすべての基底状態は電流に寄与するが,その寄与の程度は,電極のフェルミエネルギーに非常に敏感であり,有意な結論を導くことが困難であることが分かった. 量子ドット内の電子数が1個の場合,そのエネルギー準位は閉じ込めエネルギー程度間隔で離散的に存在するため,音響フォノン緩和過程が抑制されることが知られている.しかし,量子ドット内電子数が増えると,電子間のクーロン相互作用のため,エネルギー準位が密になってくる.この効果を考慮に入れると,エネルギー準位の間隔が密になった分,緩和が速く起こることがわかった.また,(多電子系の)励起状態から基底状態へと緩和する過程を考えると,音響フォノンを1個放出して,直接,基底状態へと緩和する過程より,音響フォノンを複数個放出して緩和する過程の方が速い場合があることもわかった.
|