研究概要 |
最近,π共役電子構造を有する導電性高分子の合成,物性および応用に関する研究開発が目覚ましい勢いで進展している。特に,導電性高分子の安定性や加工性の改善は電界効果型トランジスタ,発行ダイオードなど種々の薄膜電子デバイスなどの電子的・光学的な活物質として,これらの魅力的な材料の利用を大いに刺激している。薄膜作製技術は,これらの優れたデバイスを作製し,その機能を最大限に発揮させるためにきわめて重要であり,個々の有機層を規則正しく配列したり,種々の異なった機能を有する分子を個々の有機層に組み込んだ,いわゆる超分子構造の薄膜を形成する技術には非常に関心が持たれる。本研究では,上述のような観点から超分子構造の薄膜を作製する新しい技術として分子セルフアセンブリ法を用い,分子レベルで膜厚を制御した多層ヘテロ構造薄膜の製膜条件の把握とそれを用いた電子デバイスの作製を試みている。本手法は,基本的に互いに反対極性に荷電した電荷間の静電引力が製膜の起源となるので,スルホン化ポリアニリン,ポリチオフェン-3-酢酸などのポリアニオンおよびポリフェニレンビニレン前駆体,ポリジヘキシルプロパギルアンモニウムブロマイドなどのポリカチオンを合成し,その製膜条件を確立した。即ち,基板の性質(親水性,疎水性,正に荷電,負に荷電),電解質溶液の濃度,pH,イオン強度などが密着性,膜質,膜厚などに大きく影響することを明らかにし,ヘテロ界面では基底状態で相互作用はなく,吸光度と層数の間に線形関係が認められることから,分子組成が正確に制御できることを示した。更に,これらの多層ヘテロ構造超薄膜の光照射効果を調べた結果,例えばポリチオフェン-3-酢酸/ポリジヘキシルプロパギルアンモニウムブロマイドからなる系では,蛍光スペクトルの著しい消光現象と光伝導の強調現象が観測され,明らかに光誘起電荷分離が生じていることを明らかにした。これらの現象は用いた高分子の電子状態を考慮して説明可能である。更に,スルホン化ポリアニリン/ポリフェニレンビニレンからなる系電界発光素子を試作し,その基本特性を調べた。特に,発行が中性の一重項励起子を経由して起こることを指摘し,ヘテロ薄膜の厚さを薄くするにつれて発行スペクトルは高エネルギー側に移行し,膜厚が分子レベルに近づくにつれて有効に励起子が閉じ込められ,無機半導体で見られるような量子サイズ効果が認められた。この現象については,ヘテロ界面の性質が全く明らかになっていないこと,製膜の揺らぎなどから,量子化したエネルギー状態の存在にまだ議論の余地が残されているが,。本研究で得られた知見は,特徴的な電子的・光学的性質を分子レベルで制御できる上,有機層の厚さが分子スケールに近づくにつれて量子効果を実現でき,更に超薄層の層数が多くなると界面の得意な性質がバルクの性質を凌駕し,素子全体の性質として発現できるなどの可能性を秘めており,エレクトロニクス素子機能を分子で代行させようとする将来の分子電子素子を実現する上での基礎研究に大いに貢献するものと考えられる。
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