ジアセチレン誘導体の一つであるペンタコサジイン酸カドミウム塩の単分子膜を水面上に形成し、その結晶構造について検討した。その結果、2種類の表面構造が現れることがわかった。これらは互いに逆向きのらせん構造を伴う場合とドメイン状の形態を伴う場合があり、いずれの場合も円偏光を用いた偏光顕微鏡で明瞭に区別することが出来た。これらの構造は3次元結晶では双晶に対応するものである。らせん構造の発生は結晶成長初期の段階における原料分子の供給が均一でないために発生すると考えられ、それを裏ずける実験結果も得られている。 このように形成した水面上の単分子膜を紫外線で重合することによって共役鎖が形成され、半導体的な性質を有する単分子膜が得られる。この際の表面構造変化を、直径数ミクロンのポリスチレンビーズをマーカーとして光学顕微鏡で観察した。視野全体にばらまいたビーズ一つ一つの移動をコンピュータで処理しベクトルで表すことによって、ある領域の表面構造変化を一目で表すことが出来る。その結果、大気雰囲気中では大きな表面構造変化が観察されるのに対して、アルゴンガス中では構造変化は見られなかった。このことは酸素の影響があることを示している。そこで重合前のジアセチレン単分子膜と重合後のポリジアセチレン単分子膜の単位胞形態を分子力学計算により決定することを試みた。そして実験結果をほぼ合理的に説明できる単位胞構造を得ることが出来た。また、酸素の影響を考慮した単位胞構造のゆがみについても検討した。
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