水面上単分子膜の成長機構を知ることは、その結晶性を制御するうえで欠かせない。従来、単分子膜の構造を支配する要因として考えられるものはいくつかあげられてきた。しかし、実際の表面構造と対比させて検討されたことはほとんどなかった。その理由は、水面上の単分子膜を直接観察することが非常に困難だったからである。本研究では、特殊な小型水槽を考案するなどの工夫によって、微分干渉・偏光顕微鏡で水面上の単分子膜を非破壊で"その場観察"することを実現した。そして、水面上に単分子膜を作成する際に、下層水温度、pH、下層水中の金属イオンの種類、展開溶液濃度などの製膜条件が表面形態に及ぼす影響を明確に示すことが出来た。さらに大面積の単結晶単分子膜を再現性よく製膜するために、水槽に溶液トラップ部などを加えて装置を改良した。このうえで、それまでほとんど手がつけられていなかった単分子膜の結晶成長の解明に取り組んだ。膜材料はジアセチレン誘導体である。顕微鏡観察などにより、成長機構を考える多くのデータを得た後、コンピュータによる分子力学計算なども取り入れて、総合的に単分子膜の分子配列を研究した。その結果、大面積の単結晶単分子膜が得られた要因を明らかに示すことが出来た。さらに、共役鎖方向の測定により、単分子膜の単位胞配列に2通りの配列があることを明らかにし、これが3次元結晶の双晶の関係と似ていることを見出した。また、単位胞の安定な配列モデルを分子力学計算で求め、これが実際のX線回折データと良く一致することを確認した。これら一連の成果をあげることができた要因は、単分子膜の表面構造を水面上・基板上を問わず鮮明に観察できることが可能になったという点にある。
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