ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)はキャリア非平衡輸送効果が顕著に現れるデバイスとされ、そのエネルギー輸送モデルによる解析もされているが、輸送パラメータの与え方にかなり荒っぽい点があった。そこで、昨年度、メンテカルロ法と線形外挿法を用いることにより、任意の組成、キャリアエネルギーおよび不純物濃度に対して種々の輸送パラメータ(エネルギー緩和時間、キャリア移動度、upper谷の占有確率等)を与える新たな解析手法を開発した。 本年度はこの手法をnpn^-n^+AlGaAs/GaAs HBTの解析に適用し、その遮断周波数特性について検討した。その結果、遮断周波数-コレクタ電流密度特性に二つのピークが生じうることを新たに見い出した。この現象は以下のように説明される。一つ目のピークはn^-コレクタに流入する電子密度が高くなっていわゆる高注入状態となり、n^-層中の空乏層が伸び始めてコレクタ走行時間が増大するために生ずる。遮断周波数の低下はn^-層全域が空乏層となるまで続く。その後n^-層内の電界が低下してそこの電子速度が高くなり、コレクト走行時間が減少して遮断周波数が再び上昇し始める。最終的にはいわゆるベース押し出し効果によるベース・コレクタ界面付近の電子速度低下とコレクタ容量増大により遮断周波数が低下する。このように、理論的には遮断周波数特性が二つのピークを示しうる。ただし、n^-層厚がある程度厚く零バイアス時に中性領域が存在し、さらにかなり高電流が流れる状況にしないと、現実のデバイスでこの現象を観測するのは困難かも知れない。
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