半導体に添加されたErは1.54μmで発光し、光ファイバー通信への応用が大きく期待される。一方、ナノ微結晶Si(nc-Si)は、量子サイズ効果により室温で強い青色発光を示す。この青色発光の寿命が数百ピコ秒と非常に速いため、超高速な励起が可能である。一方のErは発光寿命が1ミリ秒と長いため、Er準位を光のメモリーとして用いることは十分可能である。本研究では、ポーラスSiやnc-SiへErを添加し、Er添加したnc-Si発光素子、光メモリー素子を試作することを目的とし、以下の成果を得た。 (1)ポーラスSiにErを添加し、室温においてポーラスSiによる可視発光とErからの1.54μm発光を同一試料で実現した。本研究では、ポーラスSiに添加したErの発光メカニズムをはじめて明らかにしたとともに、Er発光は母体結晶の吸収端を測る良いプローブであることを提案し、実証した。このことは他の母体に応用することもでき、特にナノ構造の母体では結晶サイズのプローブに用いられる。 (2)nc-Si:Er薄膜材料を作製した 本研究では、高純度のアモルファスSi薄膜の中にErを添加し、Erを結晶の核にし、Er添加のnc-Si材料を作製した。この方法ではSi微結晶のサイズが制御でき、結晶サイズを変えずに(最小2.7nm)結晶相のシェアを増やすことができる。本研究では、結晶サイズ3、4、5、6、7、8、などから15nmまでの試料が制御性良く製作できた。結晶サイズ7nm以下の試料では、室温の青色発光とEr発光が観測されている。本研究ではまた、レーザー・アブレーション法を用いて、結晶サイズが30nmのEr添加微結晶Siも製作した。 (3)nc-Si:Er、ポーラスSi:Erの発光特性 Er発光中心の励起は、母体のnc-Siの量子準位に励起された電子からのエネルギー伝達によって起こり、またその逆の過程も存在すると考えられる。本研究では、この相互作用を評価し、Erの再励起が可能であることを明らかにした。 (4)発光素子の試作 本研究ではnc-Si:Erを用いた発光ダイオードを製作し、その発光特性を評価した。1.54μm近辺に電流注入による発光が観測された。まだ発光がブロードで、素子の電気的特性も改善する余地があるが、十分応用できることが明らかである。
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