生体信号などに見られる非正規時系列に対しては、パワースペクトル等の2次以下の統計量だけではその特徴を完全に記述できないため、バイスペクトル等の高次スペクトルを参照する必要がある.高次スペクトルの推定においても、ノンパラメトリック法により得られる推定値は統計的変動が大きく、こうした変動が少ない推定値を得るために、一般的なパラメトリック推定法の確立が望まれてきた. 最近geometricエルゴード的自己回帰モデルの定常密度関数が、Chapman-Kolmogorovの等式より導かれる積分変換を任意の初期密度関数に対して繰り返し施して得られる唯一の極限関数と一致する原理を用いて、モデル記述から定常密度関数および高次スペクトルを数値的に求める方法が提案された.しかしながら、密度関数を単純に離散化して記述するために、記憶次数の増加に伴い計算に必要なデータ点数が指数関数的に増大する問題がある. こうした問題に対して、本研究では密度関数の記述にテンソル積展開を用いた数値解法を提案した.テンソル積展開は特異値分解を多変数関数に拡張した方法であり、対象とする多変数関数を積の形式で最も良く近似する一変数関数の組を決定し、残差を次項以降で同様に展開する.テンソル積展開を用いた場合、必要なデータ点数は記憶次数の増加に対して定数倍となる.提案法ではテンソル積展開を密度関数と積分核とに適用し、更新毎に密度関数を再度展開することで項数の発散を抑えている. 提案法の有効性を確認するために、バイスペクトルが解析的に得られるモデルの場合について、バイスペクトル計算精度の比較を行った.提案法は従来法よりも少ないデータ点数で精度良くバイスペクトルを計算できることが確認できた.今後、展開誤差と計算精度の評価、及び展開の効率化について検討する必要がある.
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