研究概要 |
本研究は,聴覚障害者のための発声・発話練習支援システムである「スピーチトレーナ」について,これをマルチメディア機器に拡張するための基礎研究を行った。 従来のスピーチトレーナは、シングルタスクのOSであるMS-DOSやBASICなどをベースに構築されたものであるが、本年はまずこれを、マルチタスクを可能にするOSであるWindows95に移植する作業から開始した。しかしながら平成8年度は,このOSが大きく変化する途上にある年にあたっているため,本年は,スピーチトレーナの主要な練習項目である母音の練習(声道,スペクトル,ピッチ周波数および声の大きさの練習を伴う)の移植に終始した。 一方、スピーチトレーナにおける新たな機能の基礎研究として,難聴者を対象とした音声フィードバックの機能と,次年度に続くプログラム・データ伝送のための通信符号化に関する基礎研究を行った。前者の内容は以下のようである。難聴者の残存聴力は概して1[kHz]以下の低い周波数帯域に限定されている場合が多く,通常の発声では,ホルマントは1個程度しか聞くことができないため,音韻の判別が困難となる。そこで,音声のピッチ周波数は変化させずにホルマントのみを周波数変換して低周波数帯域にシフトする方法について検討した。本研究は,母音の練習で用いていた声道断面積関数の推定プログラムをもとに、このような声質変換を実現する方法を模索し,試作に成功した。次年度以降実用化し,評価実験を行う予定である。 一方,通信符号化の基礎研究については,重要な個人データやプログラムの第3者への漏洩を阻止するための秘密通信について検討した。これは,スピーチトレーナにも用いている固定小数点演算DSPをベースに,カオス変調を用いて信号をノイズ化する方法であり,本研究では,完全な可逆性のある実用的な方式を実現した。
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