研究概要 |
本研究では、計測された心臓壁と動脈壁の微小振動の非定常スペクトル推定結果から,心筋や動脈壁の弾性特性を算出する手法を理論的・実験的に開発するとともに,本研究者が既に独自に開発した2つの基礎研究成果を結合させ、すでに作製した超音波計測のプロトタイプを改造して,病因で実際の多くの患者に適用できるようにした。 (1)周波数スペクトルから心筋の瞬時的な弾性特性を算出する手法の開発と評価 既に研究者が行なっている「シリコーンゴムの弾性球殻の振動の解析から弾性率を算出するための基礎研究」と,本研究者によって開発された非定常スペクトル解析法を結合し,計測された心臓壁の微小振動の非定常スペクトル解析で得られた主周波数の時間的遷移から,壁の瞬時的な弾性特性を算出するための手法を開発した. (2)既存の超音波計測システムの臨床応用可能な診断システムへの改造 本研究者は,既に心筋の微小振動の非侵襲的計測のための新しい超音波計測システムを開発してきた.この処理系全体を再設計し,東北大学附属病院において100人程度の正常者と患者の多量のデータの計測と解析を可能とするため,操作性を向上し,処理効率を改善し,大規模データの記憶などの機能を付加した.また,現在のシステムでは2〜3拍程度の長さのデータしか連続して計測できないため,音響振動信号収集装置を導入した。これによって,少なくとも10拍程度の心筋の微小振動が連続して計測でき,周波数スペクトルなどの加算平均による精度向上と,計測における再現性評価が可能となった. (3)診断システムによる処理の詳細にわたる検討・評価 上記(2)で機能を付加した診断システムによって、動物の実際の心臓などの臓器への適用実験とヒト心臓の各部位への適用実験を行って、これまでの机上の開発では得られなかった処理の細部にわたる問題点を見い出し、解決した。さらに、処理系全体の精度の評価を行った。 (4) 50人の正常者/患者の心筋微小振動の計測と心筋弾性特性の算出 分担者の小岩が属する東北大学附属病院において、上記システムを用いて、50人の正常者/患者の心臓壁振動を抽出し,精度などを評価した。 本年度の成果を基に、来年度は、多数の心臓壁弾性特性の評価結果と動物実験から様々な疾患に関する評価基準を決定し、従来にはない全く新しい循環器系の定量的精密計測診断法として確立させることができる確かな見通しが得られた。
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