地震等によりビル等の複雑な構造をもつ構造体の内部が破損している場合、外観からは破損の有無を知ることはできない。そこで、非破壊検査により、破損の有無及び破損があるとすれば、その位置を測定する技術を開発するための研究を行なった。 このために、我々は、音響振動を用いたディジタル信号処理技術を利用する方法を提案した。すなわち、まず薄壁等がなく、センサを直接取り付けることができる場所にセンサを取り付け、かつその場所をインパルスハンマで打撃する。そして、打撃に対する応答を観測すると、ビル等の構造体は構造が既知なので、反射波の位置が予測可能である。よって、予測していない位置に反射波が現れた場合、その反射波の位置から破損の位置を推定することができる。しかし、この方法を実現するためには、以下に示す問題があった。 (1)欠陥の検出に妨害となる表面波のパワーが欠陥の検出に必要なP波のパワーに比べてかなり大きい。 (2)構造体の構造が複雑になると、欠陥の検出に妨害となる反射波が多数生じる。 以下の問題を解決するために、雑音や反射波の影響を除いて音源位置を推定するために、新しい技術を開発した。すなわち、センサを複数用意し、各センサ出力を入力とする多入力1出力のフィルタバンクを計算機上に実現する。そして、このフィルタバンクの出力は打撃の位置及び構造体の寸法によって決まる位置に生じた表面波あるいは反射波に対しては0になり、想定されていない位置からの反射波(欠陥からの反射波)に対しては、そのまま出力されるようにフィルタの係数を決定するアルゴリズムを応用した。その結果、傷が表面と並行である場合には、傷が1つの場合でも、2つの場合でも傷位置を推定できることがわかった。また、従来の方法では、傷が表面と並行でなければならないという制約があったが、新たに、打撃波形が傷にぶつかり、そこから反射波が放射状に出ると考えて実験を行い、傷が斜めの場合にも傷位置を推定できた。
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