ディジタル画像から種々の計測や情報抽出を行う場合には、通常、ノイズを抑制したりエッジを明確にするための前処理操作が施される。この処理の中には周波数領域で行われるものも少なくないが、従来用いられてきたフーリエ変換を用いた処理は、複素数となり変数が増加することや、画像信号などのような2次元信号の場合、高速フーリエ変換を用いても処理時間はそれほど短くないこと、また、周波数領域における処理が、画像空間のデータにどのような影響を与えるのか、直感的に把握しにくい等の点から実際に利用されることは少なかった。本研究は周波数領域の変換にウェーブレットを用いることにより、処理時間の短縮と空間的な位置情報の把握も可能なシルテムとして、多重解像度の画像処理システムを構築しようとするものであった。すなわち、多重解像度の手法を用いて、画像を異なる周波数レベルごとに、評価したり処理したりするシステムを構成しようとするもので、具体的には、布などの織物における傷や金属板の表面傷の検出を対象として研究を行い、ウェーブレット変換による、変換画像空間での傷検査が基本的に可能であることを示すことができた。ウェーブレット変換は、近傍の点の情報が与えられれば計算できるので、リアルタイム処理への適用も可能であり、オンライン傷検査への可能性も有望であり、また、従来重要な画像処理の基本要素であるといわれながら、実際に利用されることの少なかった周波数領域での処理の実用化に対する1つの答えを与えるものと考えており、この点からの種々の対象に対する応用も今後の検討課題を考えている。
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