雲、霧、雨などのランダム粒子による電磁波の散乱問題の解析において、周波数の高いミリ波などの電磁波との相互作用では、多重散乱が無視できなくなる。本研究では、ランダム粒子のなかで、降雨を取り上げ、降雨レーダ信号に及ぼす多重散乱の影響の評価と、高精度レーダへの応用に関する研究を行った。今年度は、従来と比べて更に周波数の高い30GHzに対して、数値計算を実行し、模擬降雨の密度を変化させて行った実験結果との比較検討を行った。理論では、時間を含む放射伝達方程式において、2回の多重散乱を考慮することにより、直線偏波入射に対して、多重散乱によって生じた同一偏波成分と交差偏波成分の数値結果を得た。その結果、レーダ信号に含まれる同一偏波成分に対しても、またLDR(同一偏波成分に対する交差偏波成分の比)に対しても、予想以上に多重散乱の影響がある事がわかった。更に、実験値との比較では、前年度の16.5GHzの場合と同様に、後方散乱波には、単一散乱理論では説明の出来ない程の多重散乱による散乱波が含まれていることが確認できた。従って、従来の単一散乱に基づくレーダ信号の解析では、雨量の推定をかなり過大評価する可能性があることがわかった。その為、同一偏波成分と交差偏波成分を同時受信することにより、LDRの情報を含めて考慮すれば、より精度の高いレーダの信号解析や、雨域の構造を解明できる事が示された。 今後は、放射伝達方程式の別の近似解法や球形雨滴以外の場合に対しても適用可能な解析方法の検討を行うと共に、粒子サイズと使用する電磁波の波長との大きさ関係を変えて、より現実的な降雨モデルに対する実験も行う予定である。
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