研究概要 |
「大変位・低サイクル疲労を受けたコンクリート構造物の劣化度評価システムの開発」という課題で、これまで科学研究費補助金を受けて平成8年度から平成10年度にかけて研究を行ってきたが、これまでの成果についてまとめると次のようになる。 コンクリート構造物が疲労劣化を起こすケースとして震災を被った構造物のように大きな変位・変形を受けて急激に劣化するケースと、橋梁上部工のように長い年月を経て徐々に劣化するケースがある。本研究は、主に前者を対象とするものであるが、荷重レベルの大きさと破壊に至るまでの荷重繰り返し回数には密接な関係があり、大変位・低サイクル疲労を受けた構造物の安全性や耐久性を評価するためには、その相互関係を理解する必要がある。そこで、鉄筋コンクリート(RC)構造物のモデル実験としてRC梁部材の曲げ疲労試験に関する室内実験を行い、超音波法やAE法を用いて荷重レベルの相違に基づく部材の疲労劣化度評価の可能性を検討した。その結果、超音波スペクトロスコピー法で得られる応答スペクトルや超音波伝播エネルギー、音速法で得られる超音波伝播速度、AE法で得られる単位時間当たりのAEカウント数やAE波形振幅分布などには、部材の疲労に伴う劣化度を評価するための有力な情報が含まれていることが明らかになった。また、研究分担者(大津)の努力により、ひび割れ発生に伴うAEの発生源位置評定の適正化に関するデータ処理法(SiGMA解析)の開発や、部材内部で発生する微小ひび割れに基づくAE波形(せん断卓越型,引張り卓越型,混合型など)の分類方法(モーメントテンソル解析)が開発され、部材の疲労劣化に伴う破壊過程を評価する上で有力な手段が確立された。さらに境界要素法(BEM)を用いて部材の疲労劣化に伴う粘弾性応答解析を行った結果、ひび割れ進展に伴う応答振幅の変化やピーク周波数の変化が確認された。そこで、これらの手法を組み合わせることにより、鉄筋コンクリート構造物の荷重繰り返しに伴う疲労劣化度評価がほぼ可能になり、その評価システムの構築が可能になったと考えている。しかしながら、実験室内では地震を被った構造物の劣化状況を効果的に再現することが困難であるため未だ十分とは言い切れず、今後この方面の益々の発展が期待される。
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