研究概要 |
レーダー雨量計の有効性については様々なところで議論されている.しかし,レーダー雨量計を用いて地上における降雨強度や総降雨量の推定を行う際の様々な問題があり,十分な精度が得られていないのが現状である.その原因の一つとして,雨滴粒径分布が降雨の種類によって変化し,その鉛直分布も変化することがあげられる.落下する雨滴粒径分布の変化を雨滴の分裂・併合・蒸発などの微物理過程を考慮したモデルで表現したり,指数分布で雨滴粒径分布を表現し,その分布の傾きを降雨強度によって分類するなどの試みは行われている.しかし,それらの結果とレーダー雨量推定精度向上とは必ずしも結びついていない.申請者らはこれらの問題を根本的に解決するために降雨タイプに依存した形で雨滴粒径分布の鉛直構造を考慮したレーダー雨量推定手法の構築を目指し,実際に地上と鉛直方向の雨滴粒径分布を観測・解析することにより降雨タイプに依存した雨滴粒径分布パラメータとその鉛直分布を明らかにすることを試みた.鉛直方向の雨滴粒径分布の観測は,雨滴の落下速度のドップラースペクトルから雨滴粒径分布を推定することが可能な京都大学超高層電波研究センターのMUレーダー(Middle and Upper Radar)を用いて行った. 地上における雨滴粒径分布については,降雨タイプ別の定式化を行った.降雨期間中に降雨タイプがあまり変化しない梅雨前線に伴う降雨に関しては定式化を行うことができたが,台風性,秋雨前線などの降雨タイプでは降雨期間中に,より小さい時・空間スケールの降雨タイプが変化するために今回用いた降雨タイプによる定式化では十分に雨滴粒径分布を表現することができないことが明らかになった.対流性,層状性などのより小さな時・空間スケールでの降雨タイプによる定式化を行う必要である. 鉛直方向の雨滴粒径分布については,指数分布で推定されるパラメータの鉛直分布を時系列で追跡することによって,時々刻々変化する降雨タイプの雨滴粒径分布の鉛直分布をとらえることができ,その降雨タイプは10分程度で変化しており,定式化には10分間の平均値で行うことができることを示した.
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