研究概要 |
貯水池の水深不均一性によって生ずる熱成循環流(サーマルサイフォン)は,特定箇所への栄養塩や淡水赤潮の集積に関与していると考えられる.初年度は,一定の底面勾配の水域に一様な水面熱フラックスが作用した場合のサーマルサイフォントをκ-ε乱流モデルと水理模型実験によって検討した.数値解析によれば,水面が加熱される場合(受熱期を想定)には,表層から鉛直一次元的に水温成層が発達するだけで,顕著な循環流は発達しないことが確認された.一方,水面が冷却される場合(放熱期を想定)には,初期に秩序立ったフィンガー状のプルーム群が生成され,時間とともにそれらが合体・融合して,最終的には水域スケールの大きな鉛直循環流が発達することがわかった.従来,定性的に説明されたサーマルサイフォンの発生原理によると,受熱時・冷却時ともに類似の構造をもつ逆向きの循環流が発生すると推定されていたが,少なくとも受熱時においては,成層安定効果のために顕著な循環が生じないことがわかった.冷却時のサーマルサイフォンを実験的に検証するために,二次元水槽を用いた模型実験を行った.実験モデルでは,底面勾配を上端,水面を想定した水平底面を下端とし,水面冷却の代わりに水平底面を一定の電力で加熱する,上下逆のシステムを対象とした.水温分布は20チャンネルの熱電対により計測し,流れはマイクロカプセルによって可視化され,CCDカメラによる流れの画像をPTVにより解析した.熱電対サポート部の不倫により必ずしも十分な精度で速度計測を行うことはできなかったが,数値解析で得られたような水槽スケールの大きなサーマルサイフォン流動が再現された.一方,多重成層貯水池での水温・栄養塩の観測を行い,データの集積を図った.次年度は,栄養塩を想定して,密度をともなう物質濃度を含むサーマルサイフォンを対象とし,実験モデルと実現象との対応関係を検討する予定である.
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