研究概要 |
都市空間整備において高齢者の利用に配慮する必要性が高まっている。しかしながら、良好な歩行空間の整備には莫大な費用を要するため,その財源問題を考える上で,整備による効果を貨幣タ-ムで計測する必要が生じる。 本研究は、被験者に直接、環境質の貨幣的評価値(支払意志額)を尋ねる手法である仮想市場評価法(以下CVMとする)に注目し、高齢者に配慮した都市空間整備に対する経済評価のための基礎的知見を得ることを目的とした。 特に近年関心が高まっている、被験者への情報提示内容の問題に着目し、支払意志額への影響、また測定対象となる財の大きさが評価値に正しく反映されないという包含効果への影響について定量的な把握を行った。 このために本研究では、整備対象施設の「図による視覚的情報」、高齢者に配慮した施設を実地に被験者に説明する「歩行体験」、70歳の高齢者の視覚、聴覚、身体のバランス感覚が再現できるシニアシミュレータを装着しての「擬似的高齢化歩行体験」の3種の情報提示内容を設定した上で実験的なCVM調査を行った。調査は、先進的な歩道の整備がなされている横浜市のみなとみらい21地区において、被験者計50名の参加を得て行われた。 この結果、第一に「図による視覚情報」に比べ「擬似的高齢化歩行体験」による情報提示が支払意志額を有意に増大させることが示された。第二に、今回の調査では、いずれの情報提示においても包含効果が見られたが「擬似的高齢化歩行体験」が包含効果の程度を軽減させることが明らかになった。一方、「歩行体験」による改善効果は見られず、高齢者に配慮した施設整備に対するCVM調査を行う場合に、シニアシミュレータ等の実感的な装置を用いて適切な情報提示を行うことの重要さが示された。
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