本研究では、まず腐植質への農薬の吸着性を調べた上で、農薬の微生物分解性の検討に入るよう計画していた。農薬の吸着性は、その移動性や微生物分解速度に大きく影響する。 平成8年度はその計画に従って、農薬の吸着性に関する検討を行った。その結果研究対象とした果樹地帯から抽出されるフミン質は、腐植化の程度の低いフミン質であること、フミン質の吸着剤として弱陰イオン交換セルロースを用いることにより異なるフミン質の農薬吸着性を比較出来ること、フミン質の腐植化度は農薬吸着能に影響し腐植化度の低下に伴う吸着能の低下が大きいこと、が明かとなった。さらに、報告されている農薬の土壌吸着性のデータと付き合せることにより、実験の対象としたフミン質の農薬吸着能が比較できた。 平成9年度は、フミン質と農薬との関係が農薬の微生物分解に及ぼす影響を検討するため、まず、果樹地帯より採取した土壌中から農薬分解菌の単離を試みた。この地域での使用量が多いと考えられる殺虫剤フェニトロチオン(MEP)分解菌として数種が単離された。このうちの一株にしいてMEP分解能を詳細に検討したところ、これはMEPを資化することはできないが、グルコース共存下においてゆっくりとこれを分解し、MEP内のニトロ基をアミノ基に変換していることが明かにできた。またフミン酸はMEPを吸着することにより、微生物分解を遅らせるよう働くことを示唆する実験結果が得られた。 各種の農薬はフミン質に吸着することや、フミン質のタイプによってその吸着量が異なることが明かとされている。今後も今回検討に用いた手法によってフミン質共存時の農薬分解性を調べることにより、フミン質が農薬の微生物分解に及ぼす影響の一端を明かに出来ると考えている。
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