都市空間の拡大が、周辺地域を含めた夏季の熱環境を悪化させている。東京都心部のような集積地帯を除けば人工熱源の増加による直接的な加熱効果よりも、コンクリートやアスファルト等への変換に基づく地表面熱特性の変化がより重要と考えられる。都市空間の植栽緑化による熱環境の緩和効果および大気浄化効果を、樹種、樹木密度、樹高をパラメータにして見積もる方法の確立を目的として本年は以下のことを行った。基礎データの整備の一環として、(1)名古屋市を中心とする濃尾平野を対象に植生分類図により1kmx1kmの格子単位で植生ファイルを作成した。さらに、植生分類図で優先植生種が分かるだけで、1kmx1km単位の格子に対する緑被率は分からないため、(2)ランドサットデータを処理したNDVI値の分布と重ね合わせることにより、優先植生とその地表被覆率のファイルを整備した。さらに、(3)各植生の純一次生産量データの調査を行った。純一次生産量は、窒素酸化物や硫黄酸化物の植物体内への取り込み量と密接な関係がある。植生の影響を評価するモデルに関しては、(4)k-ε乱流モデルを用いた気象モデルに植生効果を導入する定式化と計算機プログラムの作成を行った。植生は、樹高、空間葉密度の鉛直分布、樹木による地表被覆率をパラメータとして表現している。流速に対するドラッグ効果、短波放射の植生キャノピ-内への侵入と植物からの蒸発散に基づく熱的効果が表現されている。(5)このモデルによる植生の気温への効果を試算した。植生の導入により、大気-地表間の主たる熱交換面が樹冠高度に移動してその高度の昇温が生じるとともに樹冠高度以下では、潜熱フラクッスの増加および短波の遮りによる冷却効果が表現されており、作成したモデルは一応妥当と評価した。
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