本研究ではX線光電子分光分析装置を用いて飛灰中の重金属の化合形態を同定することを目的に実験を行った。X線光電子分光分析では、それぞれ単体のピークについてはライブラリー(データベース)があるが、化合物のピークについてはない。また、各装置により若干のピークシフトのずれがあることから、新たに化合物のデータベースを作成しなければならない。ゆえに本研究では、まず化合物のデータベースの作成から行った。今回対象とした重金属は亜鉛と鉛で、比較的都市ごみ焼却飛灰中には多く含まれている元素である。亜鉛7種、鉛9種の化合物を試薬でそろえ、化合物データベースを作成した。これらのデータをもとに飛灰サンプルを分析する場合の分析条件についても検討した。実際の飛灰は全連続式ストーカ炉のバグフィルタ灰3種および電気集じん機灰3種を使用した。前処理としてピークの強度を強くおよび半値幅を小さくするために、ブリケットプレスマシーンで灰を圧縮成形した。このような処理をすることでピーク強度は1.5倍程度になった。 亜鉛の2pピークは、バグフィルタ灰ではピークが1022.10〜1022.75eVと様々であったが、電気集じん機灰の場合は1022.59〜1022.64eVとまとまっており支配的な形態は同じであった。化合物データベースとの比較から硝酸亜鉛6水和物と推定された。鉛は亜鉛よりは含有量が小さいため、2つの灰については推定不可能であったが、4つ灰から硫酸鉛、塩化鉛、炭酸鉛が推定され、集じん機による違いはなかった。
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