北海道では、冬期(積雪・寒冷時期)の高齢者(障害者)の外出環境の確保が住宅計画における大きな課題である。すなわち高齢者(障害者)にとって、住戸内部の移動はもとより、住戸外への移動の容易さが十分に確保されていることが、自立した生活を営むために非常に重要なことになる。このような観点から本研究では、北海道住宅の「内外移動空間」に焦点を当て、高齢者(障害者)の移動行動特性、現状の移動空間の実態と問題点を明らかにするとともに、移動空間のあるべき姿を検討する。この目的を達成するために、多雪地域の札幌市および倶知安町において戸建住宅における移動空間(玄関、車庫、アプローチ空間等)の実態、アプローチ空間の雪処理方法、高齢者・障害者の冬期の外出状況と移動行動特性等を知るための住宅・移動行動実態調査を行った。また垂直移動支援機器のひとつであるホームエレベータ-の利用実態を知るために、ホームエレベータ-導入住宅を対象にして実態調査を行った。 本研究で明らかになった点を要約すると、以下のようになる。(1)北海道では冬期、高齢者(障害者)の外出活動が大きく制約されている反面、買い物、病院通い、老人センター通いなど、歩ける高齢者は必要におうじて冬期も概してよく外出していることが明らかになった。(2)外出行動を制約する住宅の物理的・環境的要因に、じゅうたくの出入り口部分の形状と雪処理の仕方がある。すなわち玄関、屋外階段、アプローチ部分などの内外移動空間の形状と仕上げ等の状態、およびその除雪方法が密接に関連しており、その整備状況が高齢者(障害者)の移動行動に大きく影響している。(3)北海道で近年ふえている高床住宅およびそれに類似した床の高い住宅は、高齢者(特に障害高齢者)の移動空間での行動を制約し、外出時の困難性を増している。(4)玄関ポーチ、アプローチ部分、車庫前等の移動空間の除雪は、戸建住宅に住む高齢者(障害者)の大きな負担になっている。同時にスムースな移動を阻み、冬期の外出環境の劣悪化につながっている。(5)住宅の内外移動空間は、高低差が少なく連続的でかつできるだけ屋内化されていてスムースな移動が確保されているほど居住者の移動行動もスムースでかつ評価もよい。(6)住宅の玄関ポーチ、アプローチ部分、駐車場、車庫前などの移動空間の雪処理は、除雪面積ができるだけコンパクトにつくられていて、かつ移動空間が屋内化され、さらに住宅と一体化されているほど居住者の負担感は少なく、評価も高い。(7)現在一戸建住宅に導入されているホームエレベータ-は、歩行困難な高齢者、障害者の利用に供されている一方で、高齢者、準高齢者層が将来の事を考えて導入している例が多い。その割合はおよそ半々である。(8)ホームエレベータ-を設置している家では、高齢者、障害者以外にも家族がよく利用している。高齢者、障害者にとっては生活の拡大、移動のスムース化、外出環境の改善等につながっている。(9)ホームエレベータ-を設置している家では、高齢者、障害者および一般家族の評価も非常に高い。住宅内での垂直移動支援、外出のための移動支援システムとして、立体化している北海道住宅の空間改善、そして高齢者の外出環境改善に貢献する可能性は大きい。
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