病院建築において、今日最も大きな関心を寄せられているのは患者の療養的な環境をどのように確保するかという点である。本研究は、これまでの病院があまりに機能的にとらえられすぎており、空間の構成も機能性の面でとらえられることが多かった点を問題としてとらえ、従来の病棟・外来部・診療部門・供給部門・管理部の5部門分類とは別に、これらの中間的な領域の確立があり得るのかどうかを探り、また、それらをどのように評価するかの評価軸を想定することに努めた。また、病棟においても同様の視点によって、病室・通路・その他の諸室といった分け方でなく、患者の利用するコモンスペースに着目してこれらを患者のプライバシー空間と、看護の諸質との中間的なエリアとして考えること、およびそれらを量的に計測することの方法論を考察した。 研究の結果として、徐々にではあるが、アトリウム・ホールなどと名付けられた従来の待合スペースと明らかに異なる単機能ではない公的空間(これを本研究で中間的領域と名付けた)の出現が見られる。実際の利用も外来患者だけではなく、入院患者あるいは時として職員などの利用も見られる。病院の規模が拡大し、利用者が増加すれば病院施設の中にある種の街が形成されることもあるだろう。そういったことを予想される実情が見られた。また、こういった空間を含め、病院の療養環境をどのように評価するかの尺度も検討したが、これまでの性能規定的な評価軸よりも、目的規定的な軸が有効であることが予想される。在来の評価手法のレビューと供に、新たな軸の可能性を見つけた。病棟については、患者の利用するコモンスペースについて、セミプライベート、セミパブリックといった中間的な性格を把握するために、廊下からの見えを定量化するなどの方法によって、それぞれの空間の性格付けをすることを試みた。
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