まず基礎的理論の分析をおこなった。 ウィトルウィウスの建築書のなかに断片的に述べられている視覚補正の理論を補足し、現実の古代都市の空間のなかで適用されれば、どういう効果をうむかを、検証した。その結果、視点と見られる対象との距離が一定であることがウィトルウィウスの理論の前提であり、それが約18メートルであり、この数値が古代の都市空間のなかに繰り返しあらわれていることが明らかになった。すなわちウィトルウィウスの理論が、たんに建築デザインのみならず、街路幅や広場の寸法といった都市空間デザインとも密接な関係があることが明らかになった。 つぎに、フランスの建築アカデミーにおける17〜18世紀の議論のなかで、古代建築の設計手法が検討されたうえで、視覚矯正理論がどう検討されたかを分析した。そこでは教会建築の身廊上のヴォ-ルト天井の断面形状を視覚的にどう補正するがか集中的に議論されていたが、そこでも視点と対象との距離が18メートル程度に設定されていたことが明らかになった。 以上から、西洋建築に伝統的に議論されてきた視覚補正の理論は、視点と対象の距離の問題であることが明らかになり、今後の分析の出発点が得られた。 そのほかの作業としては、CADソフトをつかって各種の建築オーダーの形態を入力し、それを実際の視点で、現実の距離から見た場合の見えかたを検討している。これまでの古建築のCADによる復元は、正確な様式的理解にもとづいたものではなく、複雑で彫刻的な装飾をどう立体的に表現するかはたいへん困難な課題であり、コリント式とコンポジット式はこれからであるが、ドリス式、イオニア式については完了した。
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