今年度はおもにフランスの建築アカデミーにおいて議論された視角補正理論のなかで、室内空間、ことに室内のコーニス(壁の最上部を飾る水平の帯)の比例に関する部分に関する議論に注目した。まずデゴデ、ボフラン、ビュレが提出したレポートが残されており、そこに示された具体的な数値から逆算して、どの視距離から眺めることを前提として彼らが視角補正を考えていたかを明らかにした。その結果、平均すれば10尺(3.2メートル)程度、幅をもってとらえるなら8〜16尺が想定された視距離であることが判明した。 つぎに17〜18世紀にパリに建設された住宅建築のなかで、図面によってその寸法が判別できるものをできるだけ多く収集し、40棟弱の対象に関して、その室内スケールの統計をとった。いわゆるアパルトマンの主室である寝室、サロンなどでは、一辺が22尺〜24尺である場合が多く、これが当時の基本的な室内のスケールであることが判明した。 すなわちアカデミーの議論のなかで、言明はされていないが、その内容から逆算して導かれる普遍的な視距離は前述のように10尺強であるが、これは最も一般的な現実の室内空間のちょうど中央に位置して壁とその最上部のコーニスを見ることを意味する。ここに理論的探求と、現実の空間のありようとの一致を発見することができた。 これらの知見をまとめて日本建築学会計画系論文集のための審査論文として提出しているが、現在審査中である。
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