研究概要 |
この研究は,1934年の地震で倒壊・消失したパタン王宮の4基目の塔の形態を明らかにするものである。倒壊前の王宮の写真蒐集,実測調査,塔の類例の抽出をもとに,この塔を復原すると,ム-ル・チョク南棟中央のアガン寺と近似する規模の三重塔であることが明らかとなった。塔の呼称は供米を捧げる寺の意であり,ブジャー・マンディールと呼ぶ。王宮のほぼ中央に位置し,ナサル・チョク南棟上階のテラスに建ち,王宮前広場に西面する。構造形式は三重とも異なる形式の屋根を採用し,初層が正方形,二層が正方形の四隅を切り落とした八角に近い形,三層が円形平面である。マンディールの形式は,建物の上部に載るチョク一体型に分類できる。 円形の層塔はカトマンズ王宮に現存するが,三重とも異なる形式の屋根を持つ層塔は,他の王宮においても類例がない。この塔の形態は,カトマンズ盆地における現存遺構から見る限り,唯一のものである。最上層に円形を採用し,より完全な形を積み上げてゆくこの形式には,特別な意味が込めているものと考えられる。この塔は小塔でありながら,4階建の建物の屋上テラスに載り,大塔デグ・タレと並ぶその外観は,重厚である。すなわち,ブジャー・マンディールは,ネパールの層塔建築の発展過程を解明する上で貴重な存在といえる。 なお,ブジャー・マンディールの屋根頂部にはガジューが載るが,倒壊前の写真からは,その形を特定することが難しい。ガジューは,マンディールの宗教的性格と外観復原上,重要な意味を含むものであり,その類型化が急務となっている。
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