本研究の目的は、古代における中下級貴族住宅の実態解明である。とくに以下の3点を具体的な課題として設定した。すなわち(1)<立地性>貴族住宅が都市住宅として有する都市性の内実の解明、(2)<階層性>貴族社会内部における階層差による住宅の実態と住居観の相違の解明、(3)<社会・文化性>中世武家住宅との関連性の解明、の3点である。 平成8・9年度は、データの収集と整理に努め、また他分野の研究者との情報交換を行ないつつ、とりわけ研究目的の(1)と(2)を中心に考察してきた。平成8年度は(2)を取り上げ、考察対象として透渡殿に注目した。透渡殿が中下級貴族住宅には全く確認できないことから、それが邸のハレ的側面を造形する上級貴族住宅特有の施設であり、そこに彼等の住居観が反映されていることを明らかにした。また平成9年度は(1)の都市性の内実の解明に焦点をあて、世俗の身分秩序に囚われない空間を内包するところに、都市住宅としての独自性が見いだせることを明らかにした。 平成10年度(最終年度)は、前年度までの考察を踏まえ、(1)についてさらに中下級貴族邸自体に視点を転回して考察することで、車宿と侍屋の不在、倉の存在、という2点の在地に立地する邸の特質が表れていることを解明、また特に住宅内の倉は、地方官にとっての象徴的な施設であって、同時に都市内にもたらされた地方の住文化の一つでもあることを示した。また最終年度として残る課題の(3)についても取り組んだが、文献史料には限界があり、一方の発掘成果や絵画史料については十分な整理ができず、一定の考察結果を得るまでには至らなかった。今後の課題としたい。
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