本研究では、研究の基盤となる指図史料について、まず醍醐寺所蔵の指図史料の整理検討作業を行った。醍醐寺所蔵指図史料1500点についての画像史料データベースの整備を図った。そのうち特に第416・472函の指図について詳細な実物調査を行って、指図史料を歴史学的研究の素材とするために必要な史料批判の方法の確立のための基礎的情報を集積した。次に公刊されている仁和寺聖教及び東大寺供養関係史料を検討し、寺院の生活実態と儀式の分析を行った。これらの基礎的史料の整理作業と、史料分析の知見を踏まえて、まず中世前期については、六勝寺を中心とする院政期寺院の組織と法令についての検討を行った。併せて鳥羽に所在する諸寺の実態を検討した。次に中世後期に関して、上醍醐寺の指図を用いて、中世後期の山岳寺院の生活様態についての事例分析を行った。建物に直接書き付けられた文字史料を用いて、中世後期における寺院の世俗的機能(参籠・保管・集会等)とその空間について検討を行った。最後に古代的な伽藍が存続したと考えられている薬師寺について、指図史料と文献史料を併用し、中世後期の僧団の教学活動の盛衰と伽藍形態の変転を有機的に関連づけて解釈する試みを行った。以上の研究成果は平安京・京都研究集会、日本宗教文化史学会大会・奈良女子大学で口頭発表を行い、日本史研究・日本宗教文化史研究・醍醐寺文化財研究所研究紀要に投稿し、学会の批判を仰いだ。
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