重要文化財は百年の蓄積をもって充実した修復がおこなわれている。一方の地域文化財は、その地域において欠くことのできない文化遺産であり、また近年、急激に修復の数を増しているが、重要文化財に比較して修復技術の考え方や方法に大きな隔たりがある。地域文化財においても、重要文化財にみるような修復にふさわしい事業形態、十分な学術調査、保存の理念にもとづく技術による修復、確かな記録の作成などを取り入れて、体制づくりや技術の向上をはかるとともに、地域文化財独自の指針となり得る修復技術の考え方と方法を研究し、その成果を早急に普及させることが必要である。 本研究は、まず重要文化財にみる修復技術の考え方と方法を、これまで修復に携わってきた自己の経験と修理工事報告書を参考にして整理した。それと同時に可能な限り地域文化財の実地調査をおこない、事業の状況について、事業の流れ・行政の指導と学識経験者の助言・設計と監理・施工形態・記録の作成などを把握し、実際の修復技術については、破損部分の修理・復原・構造診断と耐震対策・維持保存の措置・活用のための改修や設備・施設などを調査分析した。そして、重要文化財と地域文化財で比較検討のうえ、地域文化財の問題点をあげ、今後の地域文化財にふさわしい修復技術のあり方を検討した。それらをまとめ、地域文化財保存修復技術の考え方と方法の指針案の作成を試みたものである。 なお本研究は、活用や耐震対策を含めて最も社会性のある近代建築を調査対象とし、全国を範囲として指定件数や修復が多い地域を選んだ。
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