平成8年・9年度の2年にわたり調査研究を実施したが、具体的な調査を進める中で、当初の研究項目に若干の調整を加え、調査研究の実効があがるよう努めた。その結果、調査研究項目は以下の通りに整理された。 1.調査対象となるアイヌ民族の建築施設については、広義の意味での土木施設(チャシ・砦)などは除外し、施設、とりわけ住居(チセ)を中心とし、倉(プ)熊檻などの付属施設をあわせて検討した。 2.研究を進めるにあたり、従来までの研究状況、到達点、問題点、解明すべき点などを明確にし、解明すべき点を明瞭にするために、建築史の視点を持ったアイヌ民族の住居(チセ)に関する研究史の整理を行い、その内容を検証した。その結果、現在、チセの構造的な特徴とされるケトウンニ(三脚)構造については、昭和10年代の研究によって定説化したもので、必ずしもチセの基本的な特徴とは言えない事が判明した。 3.文書、絵画、口承資料などに残る建造物関係資料の集成と建築史からの評価については、口承資料(ユ-カラなど)については、整理期間の制約などから今後の課題とし、主に文書、絵画資料の集成整理、分析を中心に行なった。この内、特に絵画資料については、建築施設が描かれる資料を抽出し分析した結果、地域、時代によって構造形式、材料ともに多様な住居形式が存在したことが検証された。 4.埋蔵住居址遺構調査についての、建築史の立場からの再評価、再考察と建築史の立場からの編年表の作成及び埋蔵住居址遺構の上部構造の復元設計については、アイヌ文化に先行する文化と考えられる擦文文化の竪穴住居遺構を中心に、近年発掘事例が報告されるようになったアイヌ文化期にかかる平地式住居遺構(柱穴列遺構)について資料を収集し集成した。編年については、構造形式の変遷過程についての試論を提示した。
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