今年度はシリコン中で一定の荷電状態をもつ原子複空孔の陽電子2次元角相関の実験および第一原理計算を行いその微視的構造を明らかにしたのでその概略を以下に述べる。 ドナー添加元素(燐)の濃度(1.0x10^<16>P/cm^3)および電子線(15MeV)照射線量(5x10^<17>e/cm^2)を適切に選ぶことによりシリコン(Si)試料中に(-1)価の原子複空孔を導入した。照射後250℃1時間の焼鈍を行い複空孔と同時に導入された空孔-燐原子対を消去させた。さらにこの試料に170℃で<110>方向一軸応力を加えることにより、この方向に垂直な面内に空孔-空孔軸を持つように複空孔を配向させた。このようにして配向複空孔を含む試料を用意し、陽電子2次元角相関を測定した。完全結晶の2次元角相関は結晶(および原子間の共有結合)の対称性を反映した大きな異方性を示す。ところが複空孔のそれは僅かな異方性しか示さないこと、さらに複空孔の2次元角相関は完全結晶のそれに比べてかなり幅狭くなることが分かった。 さて<001>方向投影の2次元角相関は完全結晶では、当然のことながら4回対称性の異方性を示すのに対し、配向している複空孔の2次元角相関は2回対称性の異方性を示す。我々の第一原理計算の結果は完全結晶および複空孔の異方性の微細構造を非常に良く再現した。このような実験と第一原理計算の比較・検討は、複空孔の2次元角相関が何故僅かしか異方性を示さないかを示すばかりでなく、複空孔の電子的・原子的構造を明らかにしてくれる。この結果は物理学でも最も権威ある雑誌の1つであるPhysical Review Letters 78巻1997年3月号に掲載されることとなった。
|