(1)Si中複空孔の電子状態。マイナス1価の複空孔を含む試料に170℃で<110>方向に一軸圧縮応力を加え、この方向に複空孔軸が揃うように調整後、陽電子消滅2次元角相関(2D-ACAR)を測定した。複空孔の対称性を反映した2D-ACARの異方性が僅かではあるが明瞭に観測された。さらに第一原理計算法によって、2D-ACARおよびその異方性を計算し、実験と良く一致する結果を得た。電子状態を調べるのに2D-ACARは優れた方法であることが明らかにされた。 (2)ダイアモンド、SiおよびGeバルクの電子構造の研究。これらについても2D-ACARの実験および計算を行い、電子構造特にσ、πバンドの化学的効果を詳細に調べた。 (3)Si中空孔クラスタ。帯溶融法で育成した結晶(FZ-Si)およびチョクラルスキー法で育成した結晶(SZ-Si)を28MeV電子照射したのち、約500℃までの焼鈍を行い空孔クラスターの2D-ACARを求めた。焼鈍温度とともに2D-ACARは徐々に幅狭くなっていった。これは空孔クラスターの成長に対応している。FZ-SiとCZ-Siでは、空孔クラスターの2D-ACARの低運動量成分にほとんど差異が認められなかったが、高運動量成分には空孔と酸素不純物が結合したことによる(CZ-Si)と思われる差異が観測された。 (4)SiC、ダイアモンド、グラファイト中の空孔および空孔クラスター。これら各種材料についても陽電子消滅角相関(2次元または1次元)および陽電子寿命測定し、空孔および空孔クラスターの同定とその電子構造解析を行った。
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