遷移金属窒化物人工格子膜の弾性的性質と膜構造との関係を解明することを目的として、窒化クロム/窒化炭素多層膜および窒化クロム/窒化チタン多層膜を反応スパッタ法により作製し、構造評価と微小硬度測定を行った。窒化クロム/窒化炭素多層膜では、人工周期2-18nmの範囲で、窒化クロム微結晶層と非晶質窒化炭素が交互に積層したノンエピタキシャル人工格子が作製できた。微小硬度(試験荷重1g)を測定する人工周期3nm近傍の試料で硬度の増大が認められ、窒化クロムあるいは窒化炭素単層膜より高い硬度を示した。また、人工周期2.5nm一定とし、窒化クロムと窒化炭素の層厚比を変えた試料を作製すると、層厚比3:1近傍で最大硬度(窒化クロム膜の硬度の120%)を示す試料が得られた。膜構造との相関について、現時点では、窒化クロム層が結晶性を保っており窒化炭素層が0.5nm程度の膜厚である試料が最も硬度が高いと言える。今後、界面構造と微小硬度の相関について、XPSなどによる検討を進める計画である。一方、窒化クロム/窒化チタン多層膜では、人工周期3-18nmの範囲で、岩塩型構造の[111]配向多結晶層からなる一軸配向性エピタキシャル多層膜が得られた。ただし、X線回折パターンにみられる超格子反射の強度から、界面におけうる相互拡散が顕著であることが判明した。微小硬度の測定を行うと、窒化チタンおよび窒化クロム単層膜の硬度を超える値は得られなかったが、人工周期45nm以下の試料で硬度の相対的な増大が認められた。また、RBSにより評価した窒化チタン層の窒素組成が定比組成からかなりずれていることが明かとなった。今後、製膜条件を最適化して、高硬度の得られる条件を探査する計画である。
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