研究概要 |
結晶粒界とクラックとの相互作用について,透光性イオン双結晶における光弾性法を用いて研究した.NaCl結晶並びにその固溶体は,劈開性と塑性の両性を有し,さらに透光性という特質を合わせ持ち,載荷状態下での光弾性像その場観察により,粒界近傍のクラック,転位の運動とそれに伴う局部応力状態変化を可視化することができる.当年度は昨年度のNaCl双結晶に加え,NaCl-NaBr双結晶を作成し,固溶硬化により転位移動度を低下させた時のクラック-粒界相互作用についても調べた.前年度の研究によって,チョコラルスキー法によりΣ5対応粒界を有する双結晶の作成に成功しているが,本年度も同様の手法を用い,NaCl結晶に加えNaCl-NaBr双結晶も作成した.まず,NaCl結晶においては,粒界近傍にクラック先端が接近すると,一回当たりのクラック進展量が低下するとともに,クラック停留時間が長くなり,結果的にその進展が抑制されていることが確認された.その原因としては,粒界近傍でクラック先端近傍の転位密度が顕著に上昇し,転位遮蔽効果によるクラック進展抑制がその主因と考えられる.次にNaCl-0.5%NaBr固溶体結晶では,前述のように,転位の移動度が制限される.このため,転位遮蔽効果によるクラック進展抵抗の増大傾向は失われてくる.しかし粒界によるクラック進展抑制効果は認められ,これには結晶方位の変化による,粒界の存在そのもが寄与していると考えられる.さらに溶質濃度を高めたNaCl-2%NaBr結晶では,進展し始めたクラックは粒界では全く停留せず,そのまま横断してしまい,クラック進展に対する粒界の効果は明確には捉えられなかった.これは,クラック進展に要する応力拡大係数が,イオン結晶の場合,溶質原子添加とともに増加し,粒界の効果が相対的に低下すること,また転位による遮蔽効果も現れないためと考えられる.
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