試料として用いた双結晶SrTiO_3は市販のもので、前年度に用いた双結晶MgOと同じ方位関係にあった。すなわち、双結晶を構成する2つの結晶粒子の表面は共に(100)面であり、これらの[010]方向間の角度は24°で、傾角粒界を形成している。表面は粒界領域を含めて平らで、原子間力顕微鏡(AFM)では粒界の存在は確認できない。この試料をAFMで観察後、空気中、1150〜1400℃に所定時間加熱し、AFMで再び観察して粒界溝の幅(w)などを測定した。得られた粒界の断面図には粒界溝の生成と同時に盛り土が観察され、Mullinsの理論的解析に良く対応する変化を示した。これは、双結晶MgOの結果と少し異なる結果であった。この測定から、wは各温度において時間の関数t^<1/4>に比例することが分かった。すなわち、SrTiO_3の粒界溝の発達は表面拡散により進行していると考えられる。さらに、粒界溝の深さhについても類似のプロットが直線関係を示し、表面拡散機構を支持した。このhの時間依存性は干渉顕微鏡による方法では求められないので、AFMによる方法の特徴である。なお、AFMでは2面角も測定できるが、データにばらつきが大きかった。この粒界溝の発達のデータを用いて計算した表面拡散係数は同じ方法で測定したMgOの表面拡散係数に近い値であった。このことは今後さらに検討する必要がある。また、この温度範囲では本研究結果はSrTiO_3中の酸素格子拡散係数と同程度の値であったが、Srの格子拡散係数よりかなり大きい値であった。なお、この物質のTiの格子拡散係数は報告されていない。これらのことから、本研究結果は陽イオンのうち拡散の遅い陽イオンの表面拡散係数ではないかと予想される。
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