研究概要 |
前年度に引き続き、ゾル・ゲル法を用いて作製したEr(III)を含有するAl_2O_3-GeO_2ガラスのアップコンバージョン蛍光や電子スピン共鳴(ESR)等について検討して、以下に示す成果を得た。 乾燥ゲルxAl_2O_3-(99-x)GeO_2-1Er_2O_3(x=0-5)の結晶化温度は、776℃(x=0)、797℃(x=1)、759℃(x=2)のようにx=1に対して最大となり、x=2以上から再び徐々に上昇して、x=5に対して773℃となった。これら全てのゲルに対して640℃で熱処理を行って、紫外・可視吸収スペクトル測定が可能である透明な加熱ゲル(ガラス)を得た。 ガラス中のEr(III)イオンに対するアップコンバージョン蛍光は、525nm、550nm、660nmに観測され、これらはそれぞれ励起状態^2H_<11/2>、^4S_<3/2>、^4F_<9/2>から基底状態^4I_<15/2>への遷移による蛍光である。この内、660nmの蛍光強度がxの値の減少とともに相対的に強くなるが、これはEr(III)イオンのクラスター化が増大することで説明される。すなわち、クラスター内の隣接するEr(III)イオン間で、(^4I_<11/2>,^4I_<13/2>)→(^4I_<15/2>,^4F_<9/2>)、または、(^4S_<3/2>,^4I_<13/2>)→(^4I_<11/2>,^4F_<9/2>)タイプのエネルギー移動によるクロス緩和が起こり、^4F_<9/2>準位の占有数が増加すると考えられる。また、xの値の減少とともに、液体ヘリウム温度で観測された80mT付近のEr(III)に因るESR信号の強度が減少したが、これも上記の説明と同様に、クラスター内のEr(III)イオンのスピン間相互作用により理解される。この相互作用には二種類考えられる。すなわち、常磁性スピン間の磁気双極子-磁気双極子相互作用と反強磁性的スピン間相互作用である。前者では、ESR信号幅が広がりすぎて、見かけ上ESR信号が観測されなくなり、後者では、クラスター内の合成スピン量子数がゼロに近付き、原理的にESR活性でなくなる。これらのどちらが利いているかを決定することが今後の課題である。
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